#32 一風変わった筆文字「ぶらっしゅ」 2020/08/10
「MORISAWA PASSPORT」などで提供されているデザインフォント「ぶらっしゅ」。その名前の由来となったBrushという単語から判るように、文字の始筆・終筆部分にブラシで描いたような荒々しさを持たせたフォントだ。今回は、そんなデザインフォント「ぶらっしゅ」を取り上げようと思う。
まず「ぶらっしゅ」とは、こんなフォント↓冒頭で述べたように「筆」の味を活かしたフォントではあるけど、毛筆フォントなどとは全く別物だね。ゴシック体に欲しい力強さと、少しポップな(力の抜けた?)印象と、デザインフォントに欲しい個性と…を程良く持ち合わせた感じ。
一発勝負のキャッチコピーや、動画のテロップなど、大きいサイズでドーンと使いたいね。文字サイズが大きければ大きいほど、このフォントの持ち味を活かせることだろう。POPな印象を持ち合わせているのでフォーマルな場面にはあまり向いていないかもしれないが、テロップで発言者の怒りを表現する時など、ピンポイントであれば使っても良さそう。あるいは、週刊誌の見出しなどで「ぶらっしゅ」が使われていたら、自分が特に興味のない内容であったとしても、数秒間は目が離れなくなってしまうかも…。おカタい頭のデザイナーが好みそうな太いゴシック体が持つ視認性や説得力だけではなく、人の目を釘付けにして離さなくする……。「ぶらっしゅ」からは、そんな魅力?をも感じるのだ。
漫画の吹き出しのフォントに興味がある人なら知っているかもしれないが、この「ぶらっしゅ」は、写植用フォント「イナブラッシュ」の制作にも携わった稲田茂氏の作品だ。だから当然といえば当然なのかもしれないが、イナブラッシュとデザインもイメージもよく似ている。そういった事情があってか、商業漫画の吹き出しに文字を入れる作業がPC上で行なわれるようになってからは、PC上では使えない「イナブラッシュ」に代わるフォントとして、「ぶらっしゅ」が選定されることは大変多いように思う。
…しかし、僕は漫画の吹き出しに使われる「ぶらっしゅ」を見ると、少しガッカリしてしまうことがある。どうしてかというと、漫画の吹き出しで選定されるフォントは、比較的小さいサイズで使われることが多いからだ。アンチック体など他のフォントであれば特に気にならないのだが(むしろ小さい方が読みやすいこともある)、「ぶらっしゅ」は文字サイズをそこそこ大きく設定してくれていたとしても、両手で広げて読める大きさの単行本上では、あまり目立っていないように感じることも多い。
ただ、そこに関しては「イナブラッシュ」にも同じことが言えると思う。だけどイナブラッシュは、丸みがあって「ぶらっしゅ」よりもコミカルな印象を持っているので、小サイズでも割と目立つんだよね。その一方で「ぶらっしゅ」はイナブラッシュと比べると直線の多いデザインで、ちょっと堅い印象がある。さらに以下の画像で示したように、かな文字の曲線の途中が所々へし折られたようになっているデザインが目に付く。大きいサイズで使えば、この途切れた部分がブラシの大雑把な動きを表現するための大切な要素となるのだが、小さいサイズでは、むしろ、ただ単に文字が「汚らしく」感じられる。
小サイズで力強さとかインパクトを出したいなら、「ぶらっしゅ」よりも太めのスタンダードなゴシック体など、小サイズで使っても文字の持ち味が壊れにくいフォントの方が向いているかもね。たぶん「ぶらっしゅ」は、漫画の吹き出しのような小さめのサイズで使うことを想定して作られてはいなかったのかもしれないし、仕方ないのだろうけど…。
ちなみに、もともと「ぶらっしゅ」はリョービフォントのラインナップにあったのだが、2011年にリョービ、及びリョービイマジクスがフォント事業をモリサワに譲渡する、という発表をした。それに伴い、MORISAWA PASSPORTのラインナップにリョービフォントの一部が加わったことで、同年間ライセンス契約者なら誰でも「ぶらっしゅ」を利用できるようになった。(OpenType版「ぶらっしゅ」のフォント名の頭文字に“Ro”とあるのはリョービフォントとして販売されていた頃の名残かな?)
さらに現在では、Adobe Creative Cloudの契約者が利用できるAdobe Fontsのラインナップにも「ぶらっしゅ」が加わったことで、YouTuberの動画や同人誌などでもしばしば使用例を見ることができるようになった。もちろん、そうなると僕がいつも気にしているように、場面にそぐわない使用例も目に入ってくるんだけどね(笑)。手をかけなくても簡単にインパクトのある表現ができる便利なフォントが気軽に使える点では、悪くないのかもしれないけど…。
それでは、また来月の「フォントの独り言」でお会いしましょう。ィヨロシク!!
【参考にしたサイト】(いずれも2020.7.14閲覧)・ぶらっしゅ|モリサワのフォント↓任意の文字列で試し打ちができます。https://www.morisawa.co.jp/fonts/specimen/1697・RoぶらっしゅStd|Adobe Fonts↓ここでも試し打ちができます。https://fonts.adobe.com/fonts/ro-brush-std・稲田茂(グラフィックデザイナー)|Wikipediahttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A8%B2%E7%94%B0%E8%8C%82_(%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%87%E3%82%B6%E3%82%A4%E3%83%8A%E3%83%BC)・モリサワ リョービ株式会社ならびにリョービイマジクス株式会社からのフォント事業譲渡を発表https://www.morisawa.co.jp/about/news/1003・NET-DTP 人気書体サンプル↓「イナブラッシュ」のフォントサンプルが見られます。http://www.net-dtp.com/best%20syotai06.html
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「MORISAWA PASSPORT」などで提供されているデザインフォント「ぶらっしゅ」。
その名前の由来となったBrushという単語から判るように、文字の始筆・終筆部分にブラシで描いたような荒々しさを持たせたフォントだ。
今回は、そんなデザインフォント「ぶらっしゅ」を取り上げようと思う。
まず「ぶらっしゅ」とは、こんなフォント↓
冒頭で述べたように「筆」の味を活かしたフォントではあるけど、毛筆フォントなどとは全く別物だね。
ゴシック体に欲しい力強さと、少しポップな(力の抜けた?)印象と、デザインフォントに欲しい個性と…を程良く持ち合わせた感じ。
一発勝負のキャッチコピーや、動画のテロップなど、大きいサイズでドーンと使いたいね。
文字サイズが大きければ大きいほど、このフォントの持ち味を活かせることだろう。
POPな印象を持ち合わせているのでフォーマルな場面にはあまり向いていないかもしれないが、テロップで発言者の怒りを表現する時など、ピンポイントであれば使っても良さそう。
あるいは、週刊誌の見出しなどで「ぶらっしゅ」が使われていたら、自分が特に興味のない内容であったとしても、数秒間は目が離れなくなってしまうかも…。
おカタい頭のデザイナーが好みそうな太いゴシック体が持つ視認性や説得力だけではなく、人の目を釘付けにして離さなくする……。
「ぶらっしゅ」からは、そんな魅力?をも感じるのだ。
漫画の吹き出しのフォントに興味がある人なら知っているかもしれないが、この「ぶらっしゅ」は、写植用フォント「イナブラッシュ」の制作にも携わった稲田茂氏の作品だ。
だから当然といえば当然なのかもしれないが、イナブラッシュとデザインもイメージもよく似ている。
そういった事情があってか、商業漫画の吹き出しに文字を入れる作業がPC上で行なわれるようになってからは、PC上では使えない「イナブラッシュ」に代わるフォントとして、「ぶらっしゅ」が選定されることは大変多いように思う。
…しかし、僕は漫画の吹き出しに使われる「ぶらっしゅ」を見ると、少しガッカリしてしまうことがある。
どうしてかというと、漫画の吹き出しで選定されるフォントは、比較的小さいサイズで使われることが多いからだ。
アンチック体など他のフォントであれば特に気にならないのだが(むしろ小さい方が読みやすいこともある)、「ぶらっしゅ」は文字サイズをそこそこ大きく設定してくれていたとしても、両手で広げて読める大きさの単行本上では、あまり目立っていないように感じることも多い。
ただ、そこに関しては「イナブラッシュ」にも同じことが言えると思う。
だけどイナブラッシュは、丸みがあって「ぶらっしゅ」よりもコミカルな印象を持っているので、小サイズでも割と目立つんだよね。
その一方で「ぶらっしゅ」はイナブラッシュと比べると直線の多いデザインで、ちょっと堅い印象がある。
さらに以下の画像で示したように、かな文字の曲線の途中が所々へし折られたようになっているデザインが目に付く。
大きいサイズで使えば、この途切れた部分がブラシの大雑把な動きを表現するための大切な要素となるのだが、小さいサイズでは、むしろ、ただ単に文字が「汚らしく」感じられる。
小サイズで力強さとかインパクトを出したいなら、「ぶらっしゅ」よりも太めのスタンダードなゴシック体など、小サイズで使っても文字の持ち味が壊れにくいフォントの方が向いているかもね。
たぶん「ぶらっしゅ」は、漫画の吹き出しのような小さめのサイズで使うことを想定して作られてはいなかったのかもしれないし、仕方ないのだろうけど…。
ちなみに、もともと「ぶらっしゅ」はリョービフォントのラインナップにあったのだが、2011年にリョービ、及びリョービイマジクスがフォント事業をモリサワに譲渡する、という発表をした。
それに伴い、MORISAWA PASSPORTのラインナップにリョービフォントの一部が加わったことで、同年間ライセンス契約者なら誰でも「ぶらっしゅ」を利用できるようになった。
(OpenType版「ぶらっしゅ」のフォント名の頭文字に“Ro”とあるのはリョービフォントとして販売されていた頃の名残かな?)
さらに現在では、Adobe Creative Cloudの契約者が利用できるAdobe Fontsのラインナップにも「ぶらっしゅ」が加わったことで、YouTuberの動画や同人誌などでもしばしば使用例を見ることができるようになった。
もちろん、そうなると僕がいつも気にしているように、場面にそぐわない使用例も目に入ってくるんだけどね(笑)。
手をかけなくても簡単にインパクトのある表現ができる便利なフォントが気軽に使える点では、悪くないのかもしれないけど…。
それでは、また来月の「フォントの独り言」でお会いしましょう。ィヨロシク!!
【参考にしたサイト】(いずれも2020.7.14閲覧)
・ぶらっしゅ|モリサワのフォント
↓任意の文字列で試し打ちができます。
https://www.morisawa.co.jp/fonts/specimen/1697
・RoぶらっしゅStd|Adobe Fonts
↓ここでも試し打ちができます。
https://fonts.adobe.com/fonts/ro-brush-std
・稲田茂(グラフィックデザイナー)|Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A8%B2%E7%94%B0%E8%8C%82_(%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%87%E3%82%B6%E3%82%A4%E3%83%8A%E3%83%BC)
・モリサワ リョービ株式会社ならびにリョービイマジクス株式会社からのフォント事業譲渡を発表
https://www.morisawa.co.jp/about/news/1003
・NET-DTP 人気書体サンプル
↓「イナブラッシュ」のフォントサンプルが見られます。
http://www.net-dtp.com/best%20syotai06.html
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