#29 実りある未来に「みのり」フォント 2020/05/10
2020年春、白舟書体とシヤチハタが共同で運営するフォントサービス「J-Font.com」契約者向けに、新書体『みのり』が先行リリースされた。昨年冬にJ-Font.comのサービスが開始されてから、おそらく初となる新書体の提供。このフォントがリリースされるという告知があってから、とても楽しみにしていた。今回は、何となく重苦しい空気が漂う今をパッと明るくしてくれそうな「みのり」を取り上げようと思う。
まず、「みのり」とはどんなフォントか見てみよう。「みのり-笑(しょう)」と「みのり-福(ふく)」の2種類があり、それぞれひらがなの字形が異なる↓
僕が「みのり」に対して抱いた第一印象を端的に言うと、【ポジティブしかない】フォント。こんな言い方をすると、ただフォントの名前に惑わされているだけで嘘臭いと思われそうだが、決して偽りも飾りも全くない、率直な印象だ。何となく明るい印象のワードをフォントの名前に含めていても、実際に購入して使ってみると、名前ほどではないし、思っていたより使いにくいし、もう二度と使いたいとは思わないな…って思うフォントとも実際に出会った(否、出遭った)ことがある(笑)。そんなフォントもたくさんある一方で『みのり』は、「明るさ」「温もり」「優しさ」「ひた向きさ」…など、ありきたりでしょうもないかもしれないが、本当にポジティブな言葉しか連想できなくなる。そんなフォントなのだ。
1~2文字を観察するだけでも判るんだけど、線の細い部分と太い部分の抑揚が美しい。たった1文字だけ見た時の印象(個性や主張?)が強いフォントって、何文字も並べたらますます鬱陶しく、気持ち悪く、時に見るに堪えない印象になることもあるんだよ。しかし、「みのり」の場合は、文字をいくつも並べれば並べるほど、むしろ全体が調和してくるように思える。この大胆なデザインをフォントとしてまとめ上げようと考えた書家さんをはじめとする制作に携わった皆さんの決意もカッコイイ。同じようなテイストの文字を毛筆で何となく真似て描ける人が他にいたとしても、フォント化する時に必要な数千文字を全て同じ印象でまとめ上げ、作り上げる技術はまた別物だからね。これだけ思い切ったデザインコンセプトで、全ての収容文字を揃え、それをフォントになるようまとめ上げるまで、相当な苦労があっただろうと想像する…。「カスレ」や「筆の勢い」を活かした毛筆フォントはよくあるけど、それらとはまた違う毛筆フォントに欲しいニーズに応えてくれている点も評価できるね。またこれも、白舟書体のフォント全般に言えることだけど、ゴシック体や明朝体の文字を描き、フォント化するのとはまた違う大変さのある毛筆の文字を、ここまで自在に操ってバリエーション豊かにフォント化できる技術には、もうただただ脱帽する。
2種類あるひらがなのうち、「笑」の方はちょっと癖があるので、あまり細かい手を加えて使う自信がないなら、癖の少ない「福」を使うのが良いかな。「福」でも充分過ぎるくらい良い味があるけど、もう少し遊び心が欲しい…!という使い手のワガママに答えてくれるのが「笑」だろうか。好みや用途に合わせて、2種類あるひらがなのどちらか、あるいは両方を使い分けて楽しむのもアリだし、ひらがなが多い(同じひらがなが重複する)場面で使うなら、「笑」と「福」を同じフレーズの中で混在させるのもアリか?なんて思った(前述の画像参照)。「笑」も「福」も、混在させてもそんなに違和感のないデザインに思えたからね。使い方にもよるが、重複するひらがなのパターンが2つに増えるだけで、グッと温かく、より直筆に近い印象になるのではないだろうか?
多くのフォントはその特性上、手書きと異なり、重複する文字のデザインを少しずつ変えてみたりする遊びができないのが難点。直筆と異なり、全ての文字が常に均一なルールのもとに作られ、保たれている点は、間違いなくフォントの「強み」なんだけどね。しかし、重複する文字のデザインが全く同じになることで、(フォントや組み方にもよるけど)時に冷たい印象になってしまう点は、「所詮手書きには敵わないんだな」と言わざるを得ない、ほぼ全てのフォントの「弱み」でもある…。そのフォントならではの「弱み」を使い手が気にしたのか、文字ごとにアウトライン化して手を加えてくれたりもするんだけど、それはフォント専門のデザイナーの仕事ではないから、かえってフォントの良さを損ねる結果になっていることも多い。それを僕なりにわかりやすく喩えるなら、旦那さんが奥さんの手料理を食べる際、薄味に感じたからって、醤油やソース、マヨネーズなどで勝手に味を変えられてしまった時の奥さんの心情…のような(笑)。料理にしてもフォントにしても、作り手はそれだけで、食べてもらう人や使い手に満足してもらえるような出来を目指して頑張ってくれたはずなので、使い手が余計な手を加えたせいでフォントの良さが台無しになっている使用例を見ると、残念に思うんだよ…。もちろん手を加えることで良くなる場合もあるかもしれないが、少なくとも「みのり」に関しては、できるだけこのままのデザインで、過度な装飾や加工を施さず、組み方だけ工夫して、シンプルに使いたいなと僕は感じた。
――この2020年という年に、「みのり」というフォントのリリース…。この年に世間に広がるであろうネガティブなムードをいち早く察知し、このタイミングに発表されることを見越して生まれてきたのではないか、なんて僕は想像を膨らませた。ただの偶然なのかもしれないけど、「みのり」という言葉だけでも充分美しいのに、まさしく錦上に花を添えるかのように「笑」や「福」が付けられたフォントが今このタイミングでリリースされるなんて、もはや運命しか感じられないでしょ?(笑)誰も予期し得なかったネガティブからの脱却のため、この「みのり」フォントが多くの人に知れ渡っていくことを僕は心から願っている。
それでは、また来月の「フォントの独り言」でお会いしましょう。ィヨロシク!!
【「みのり」を含む白舟書体が多数使えるフォントサービス】・J-Font.com|株式会社白舟書体×シヤチハタ株式会社https://j-font.com/
【参考にしたサイト】(いずれも2020.4.11閲覧)・2020年新書体 みのり|J-Font.comhttps://j-font.com/contents/new_font_minori/・ごとうみのる公式サイト(「みのり」制作に携わった書家さん)http://www.oreminoru.com/
スポンサーサイト
2020年春、白舟書体とシヤチハタが共同で運営するフォントサービス「J-Font.com」契約者向けに、新書体『みのり』が先行リリースされた。
昨年冬にJ-Font.comのサービスが開始されてから、おそらく初となる新書体の提供。
このフォントがリリースされるという告知があってから、とても楽しみにしていた。
今回は、何となく重苦しい空気が漂う今をパッと明るくしてくれそうな「みのり」を取り上げようと思う。
まず、「みのり」とはどんなフォントか見てみよう。
「みのり-笑(しょう)」と「みのり-福(ふく)」の2種類があり、それぞれひらがなの字形が異なる↓
僕が「みのり」に対して抱いた第一印象を端的に言うと、【ポジティブしかない】フォント。
こんな言い方をすると、ただフォントの名前に惑わされているだけで嘘臭いと思われそうだが、決して偽りも飾りも全くない、率直な印象だ。
何となく明るい印象のワードをフォントの名前に含めていても、実際に購入して使ってみると、名前ほどではないし、思っていたより使いにくいし、もう二度と使いたいとは思わないな…って思うフォントとも実際に出会った(否、出遭った)ことがある(笑)。
そんなフォントもたくさんある一方で『みのり』は、「明るさ」「温もり」「優しさ」「ひた向きさ」…など、ありきたりでしょうもないかもしれないが、本当にポジティブな言葉しか連想できなくなる。そんなフォントなのだ。
1~2文字を観察するだけでも判るんだけど、線の細い部分と太い部分の抑揚が美しい。
たった1文字だけ見た時の印象(個性や主張?)が強いフォントって、何文字も並べたらますます鬱陶しく、気持ち悪く、時に見るに堪えない印象になることもあるんだよ。
しかし、「みのり」の場合は、文字をいくつも並べれば並べるほど、むしろ全体が調和してくるように思える。
この大胆なデザインをフォントとしてまとめ上げようと考えた書家さんをはじめとする制作に携わった皆さんの決意もカッコイイ。
同じようなテイストの文字を毛筆で何となく真似て描ける人が他にいたとしても、フォント化する時に必要な数千文字を全て同じ印象でまとめ上げ、作り上げる技術はまた別物だからね。
これだけ思い切ったデザインコンセプトで、全ての収容文字を揃え、それをフォントになるようまとめ上げるまで、相当な苦労があっただろうと想像する…。
「カスレ」や「筆の勢い」を活かした毛筆フォントはよくあるけど、それらとはまた違う毛筆フォントに欲しいニーズに応えてくれている点も評価できるね。
またこれも、白舟書体のフォント全般に言えることだけど、ゴシック体や明朝体の文字を描き、フォント化するのとはまた違う大変さのある毛筆の文字を、ここまで自在に操ってバリエーション豊かにフォント化できる技術には、もうただただ脱帽する。
2種類あるひらがなのうち、「笑」の方はちょっと癖があるので、あまり細かい手を加えて使う自信がないなら、癖の少ない「福」を使うのが良いかな。
「福」でも充分過ぎるくらい良い味があるけど、もう少し遊び心が欲しい…!という使い手のワガママに答えてくれるのが「笑」だろうか。
好みや用途に合わせて、2種類あるひらがなのどちらか、あるいは両方を使い分けて楽しむのもアリだし、ひらがなが多い(同じひらがなが重複する)場面で使うなら、「笑」と「福」を同じフレーズの中で混在させるのもアリか?なんて思った(前述の画像参照)。
「笑」も「福」も、混在させてもそんなに違和感のないデザインに思えたからね。
使い方にもよるが、重複するひらがなのパターンが2つに増えるだけで、グッと温かく、より直筆に近い印象になるのではないだろうか?
多くのフォントはその特性上、手書きと異なり、重複する文字のデザインを少しずつ変えてみたりする遊びができないのが難点。
直筆と異なり、全ての文字が常に均一なルールのもとに作られ、保たれている点は、間違いなくフォントの「強み」なんだけどね。
しかし、重複する文字のデザインが全く同じになることで、(フォントや組み方にもよるけど)時に冷たい印象になってしまう点は、「所詮手書きには敵わないんだな」と言わざるを得ない、ほぼ全てのフォントの「弱み」でもある…。
そのフォントならではの「弱み」を使い手が気にしたのか、文字ごとにアウトライン化して手を加えてくれたりもするんだけど、それはフォント専門のデザイナーの仕事ではないから、かえってフォントの良さを損ねる結果になっていることも多い。
それを僕なりにわかりやすく喩えるなら、旦那さんが奥さんの手料理を食べる際、薄味に感じたからって、醤油やソース、マヨネーズなどで勝手に味を変えられてしまった時の奥さんの心情…のような(笑)。
料理にしてもフォントにしても、作り手はそれだけで、食べてもらう人や使い手に満足してもらえるような出来を目指して頑張ってくれたはずなので、使い手が余計な手を加えたせいでフォントの良さが台無しになっている使用例を見ると、残念に思うんだよ…。
もちろん手を加えることで良くなる場合もあるかもしれないが、少なくとも「みのり」に関しては、できるだけこのままのデザインで、過度な装飾や加工を施さず、組み方だけ工夫して、シンプルに使いたいなと僕は感じた。
――この2020年という年に、「みのり」というフォントのリリース…。
この年に世間に広がるであろうネガティブなムードをいち早く察知し、このタイミングに発表されることを見越して生まれてきたのではないか、なんて僕は想像を膨らませた。
ただの偶然なのかもしれないけど、「みのり」という言葉だけでも充分美しいのに、まさしく錦上に花を添えるかのように「笑」や「福」が付けられたフォントが今このタイミングでリリースされるなんて、もはや運命しか感じられないでしょ?(笑)
誰も予期し得なかったネガティブからの脱却のため、この「みのり」フォントが多くの人に知れ渡っていくことを僕は心から願っている。
それでは、また来月の「フォントの独り言」でお会いしましょう。ィヨロシク!!
【「みのり」を含む白舟書体が多数使えるフォントサービス】
・J-Font.com|株式会社白舟書体×シヤチハタ株式会社
https://j-font.com/
【参考にしたサイト】(いずれも2020.4.11閲覧)
・2020年新書体 みのり|J-Font.com
https://j-font.com/contents/new_font_minori/
・ごとうみのる公式サイト(「みのり」制作に携わった書家さん)
http://www.oreminoru.com/
スポンサーサイト
コメント