#42 人の心宿る「白舟楷書」がリニューアル 2021/06/10
2021年5月、白舟書体の毛筆フォントが使える年間ライセンス「J-Font.com」の会員向けに新書体「白舟匠楷書」がリリースされた。白舟書体のフォントの中でもスタンダードな楷書体「白舟楷書」に、今までよりも太いウェイトが追加され、さらに字形の修正や収容文字数を大幅に増やすなどして生まれ変わったフォントだ。今回は、そんな新書体「白舟匠楷書」と「白舟楷書」の話をしようと思う。
まず「白舟匠楷書」と、リニューアル前の「白舟楷書」を比較すると、こんな感じ↓従来の白舟楷書の「太(B)」「極太(E)」に加えて「超極太(U)」のウェイトが追加されている。従来版にあったRウェイトは廃止されたようだが、RとBの2ウェイトで太さの違いが判りにくいように感じていたから良かったと思う。正直、極太だとちょっと太さが足りないかな、と思うことがあった僕にはとても嬉しいリニューアルだ。白舟匠楷書ではB・E・Uの3ウェイトで太さの差異がはっきりしているので、各ウェイトを使い分ける価値がより高まったからね。また従来の白舟楷書には、あまり気にならないレベルではあったものの一部のかな文字に若干癖があり、英字にもぎこちなさがあったが、今回のリニューアルで全く申し分ないレベルに修正されたようだ。従来の白舟楷書のテイストが崩れないように、でもよりフォントとして使いやすいように、細部を程良く調整してきれいにまとめ上げてくれたなと思う。
かなり前から僕は白舟楷書が好きで、使用例を見る度に立ち止まって眺めたりしていた。一文字一文字をただじっと見ているだけで、心を温めてくれるから。しばらく会えなかった家族や親戚、友達、恩師など大切な人に会った時のような優しい気分になれるというか。しかも「極太」にあたる太さでも、「温もり」や「優しさ」が失われていないのだ。「極太」にあたる太さの楷書体フォント自体が、他のフォントベンダーのラインナップにもあるにはあるけど意外と少ないんだよね。「迫力」や「力強さ」が求められる場面で大いに役立ちそうな極太の楷書体ならば他社にもあるけど、白舟の楷書体のように毛筆だからこそ出せる「美しさ」が感じられないものも多い。迫力や力強さも毛筆フォントに欲しいものではあるが、それと同じくらい「美しさ」「温もり」「優しさ」なども、毛筆だからこそ出せるテイストだと思うんだよ。白舟の楷書体は、同社が制作する楷書体にしか出せない個性をしっかりと持っているんだけど、個性を「主張」はしない…というのか。それに、手書きの楷書体をベースにしていても、「あ、所詮はコンピュータ上で散々いじったフォントなんだな」と思うくらいに磨かれ過ぎているフォントが非常に多い。すごく美しい文字が書ける人にコツコツ数千文字を書いてもらって一文字ずつフォントに収容する作業をしただけでは使い良いフォントにはならないし、だからといって使いやすさを気にしてコンピュータ上で磨き過ぎると毛筆の良さが簡単に失われてしまう。磨かれ過ぎた毛筆フォントはレトルト食品にも似ていて、添加物を多く使って人間の味覚を騙す方がコストを抑えて安く販売できるし、消費者もそれを美味しいと思って食べるわけだが、やっぱり手作りの味には程遠い。楷書体に限らず多くの毛筆フォントに対して思うことだが、レトルト食品のように手を加えられ過ぎているせいで、あるいは反対にフォントとしてきれいに見えるように丁寧な調整が施されていないせいで、どの文字からも魂が抜けきってしまっているように感じる。
しかし白舟の楷書体で文字を組んでみると、「文字が活き活き生きている!」ような感じがする。ただ好きな文字をカタカタと打ち込んでみるだけで、書き手の気持ちか、あるいはフォントそのものが発する声が直接心に語りかけてくるような感じ。厳格で気難しいだけだと思っていた父親が、孫に会った瞬間急に顔を綻ばせた時のように、迷いの無い筆致で堅くデザインされているんだけど、その裏からは「文字が微笑んでいる」というか、フォントという「モノ」なのに人間にしか無いはずの魂や心が宿っているように感じられるんだよ。「堅い」んだけども「柔軟性がある」ので、注意書きなど多少フォーマルな場面で使っても、優しい声で呼びかけるように伝えてくれると思う。ベースになった手書きの楷書体の印象をできる限り損なわないように注意しつつ、コンピュータの強みも上手く利用しながら、制作に携わった人たちが呼吸を合わせてフォント化の作業をしていた、その光景までもが見えてくる気がする。決して奇をてらったようなデザインでは無いけど、コンピュータだけでは絶対に表現できない毛筆や手書きならではの味を持っており、なおかつフォントとして使い勝手が良いように丁寧に作られている…。そういった意味で白舟の楷書体は、とても「ちょうど良い」と思うのだ。
現在はモリサワやフォントワークスなど、大手フォントベンダーのサブスクリプションを契約すれば、幅広いジャンルのフォントを気軽に利用できる時代だ。フォントにこだわりが無い人なら、これらのサブスクリプションを1つか2つ契約しておけばフォントに困ることは無いのだろう。しかしこういったフォントの総合商社でさえも、毛筆フォントのラインナップはそんなに良くないし、あまり良いものが揃っていないように思う。毛筆を用いてデザインするフォント自体が、かなり特殊なジャンルに位置していて、コンピュータ上でのデザインには限界があるのだろう。しかし白舟書体では、今回取り上げた楷書体以外にも数十もの毛筆フォントを取り扱っているのにもかかわらず、似たり寄ったりでなくデザイン性に富んでいるから使い分ける楽しみがあるし、こうして1つの記事にして取り上げたいフォントがまだまだたくさんある。餅は餅屋という言葉があるように、毛筆フォント専門でここまでバリエーションに富んだフォントを作れるのは、大手フォントベンダーには絶対に真似できない強みだと思うし、白舟書体の今後の成長にも期待している。
それでは、また来月の「フォントの独り言」でお会いしましょう。ィヨロシク!!
【参考にしたサイト】●「J-Font.com」公式サイト白舟書体とシヤチハタが共同で運営するフォントサービス。今回紹介した「白舟匠楷書」を含む多くの白舟書体のフォントがサブスクリプション形式で利用できます。https://j-font.com/●株式会社白舟書体 公式サイトhttp://www.hakusyu.com/
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2021年5月、白舟書体の毛筆フォントが使える年間ライセンス「J-Font.com」の会員向けに新書体「白舟匠楷書」がリリースされた。
白舟書体のフォントの中でもスタンダードな楷書体「白舟楷書」に、今までよりも太いウェイトが追加され、さらに字形の修正や収容文字数を大幅に増やすなどして生まれ変わったフォントだ。
今回は、そんな新書体「白舟匠楷書」と「白舟楷書」の話をしようと思う。
まず「白舟匠楷書」と、リニューアル前の「白舟楷書」を比較すると、こんな感じ↓
従来の白舟楷書の「太(B)」「極太(E)」に加えて「超極太(U)」のウェイトが追加されている。
従来版にあったRウェイトは廃止されたようだが、RとBの2ウェイトで太さの違いが判りにくいように感じていたから良かったと思う。
正直、極太だとちょっと太さが足りないかな、と思うことがあった僕にはとても嬉しいリニューアルだ。
白舟匠楷書ではB・E・Uの3ウェイトで太さの差異がはっきりしているので、各ウェイトを使い分ける価値がより高まったからね。
また従来の白舟楷書には、あまり気にならないレベルではあったものの一部のかな文字に若干癖があり、英字にもぎこちなさがあったが、今回のリニューアルで全く申し分ないレベルに修正されたようだ。
従来の白舟楷書のテイストが崩れないように、でもよりフォントとして使いやすいように、細部を程良く調整してきれいにまとめ上げてくれたなと思う。
かなり前から僕は白舟楷書が好きで、使用例を見る度に立ち止まって眺めたりしていた。
一文字一文字をただじっと見ているだけで、心を温めてくれるから。
しばらく会えなかった家族や親戚、友達、恩師など大切な人に会った時のような優しい気分になれるというか。
しかも「極太」にあたる太さでも、「温もり」や「優しさ」が失われていないのだ。
「極太」にあたる太さの楷書体フォント自体が、他のフォントベンダーのラインナップにもあるにはあるけど意外と少ないんだよね。
「迫力」や「力強さ」が求められる場面で大いに役立ちそうな極太の楷書体ならば他社にもあるけど、白舟の楷書体のように毛筆だからこそ出せる「美しさ」が感じられないものも多い。
迫力や力強さも毛筆フォントに欲しいものではあるが、それと同じくらい「美しさ」「温もり」「優しさ」なども、毛筆だからこそ出せるテイストだと思うんだよ。
白舟の楷書体は、同社が制作する楷書体にしか出せない個性をしっかりと持っているんだけど、個性を「主張」はしない…というのか。
それに、手書きの楷書体をベースにしていても、「あ、所詮はコンピュータ上で散々いじったフォントなんだな」と思うくらいに磨かれ過ぎているフォントが非常に多い。
すごく美しい文字が書ける人にコツコツ数千文字を書いてもらって一文字ずつフォントに収容する作業をしただけでは使い良いフォントにはならないし、だからといって使いやすさを気にしてコンピュータ上で磨き過ぎると毛筆の良さが簡単に失われてしまう。
磨かれ過ぎた毛筆フォントはレトルト食品にも似ていて、添加物を多く使って人間の味覚を騙す方がコストを抑えて安く販売できるし、消費者もそれを美味しいと思って食べるわけだが、やっぱり手作りの味には程遠い。
楷書体に限らず多くの毛筆フォントに対して思うことだが、レトルト食品のように手を加えられ過ぎているせいで、あるいは反対にフォントとしてきれいに見えるように丁寧な調整が施されていないせいで、どの文字からも魂が抜けきってしまっているように感じる。
しかし白舟の楷書体で文字を組んでみると、「文字が活き活き生きている!」ような感じがする。
ただ好きな文字をカタカタと打ち込んでみるだけで、書き手の気持ちか、あるいはフォントそのものが発する声が直接心に語りかけてくるような感じ。
厳格で気難しいだけだと思っていた父親が、孫に会った瞬間急に顔を綻ばせた時のように、迷いの無い筆致で堅くデザインされているんだけど、その裏からは「文字が微笑んでいる」というか、フォントという「モノ」なのに人間にしか無いはずの魂や心が宿っているように感じられるんだよ。
「堅い」んだけども「柔軟性がある」ので、注意書きなど多少フォーマルな場面で使っても、優しい声で呼びかけるように伝えてくれると思う。
ベースになった手書きの楷書体の印象をできる限り損なわないように注意しつつ、コンピュータの強みも上手く利用しながら、制作に携わった人たちが呼吸を合わせてフォント化の作業をしていた、その光景までもが見えてくる気がする。
決して奇をてらったようなデザインでは無いけど、コンピュータだけでは絶対に表現できない毛筆や手書きならではの味を持っており、なおかつフォントとして使い勝手が良いように丁寧に作られている…。
そういった意味で白舟の楷書体は、とても「ちょうど良い」と思うのだ。
現在はモリサワやフォントワークスなど、大手フォントベンダーのサブスクリプションを契約すれば、幅広いジャンルのフォントを気軽に利用できる時代だ。
フォントにこだわりが無い人なら、これらのサブスクリプションを1つか2つ契約しておけばフォントに困ることは無いのだろう。
しかしこういったフォントの総合商社でさえも、毛筆フォントのラインナップはそんなに良くないし、あまり良いものが揃っていないように思う。
毛筆を用いてデザインするフォント自体が、かなり特殊なジャンルに位置していて、コンピュータ上でのデザインには限界があるのだろう。
しかし白舟書体では、今回取り上げた楷書体以外にも数十もの毛筆フォントを取り扱っているのにもかかわらず、似たり寄ったりでなくデザイン性に富んでいるから使い分ける楽しみがあるし、こうして1つの記事にして取り上げたいフォントがまだまだたくさんある。
餅は餅屋という言葉があるように、毛筆フォント専門でここまでバリエーションに富んだフォントを作れるのは、大手フォントベンダーには絶対に真似できない強みだと思うし、白舟書体の今後の成長にも期待している。
それでは、また来月の「フォントの独り言」でお会いしましょう。ィヨロシク!!
【参考にしたサイト】
●「J-Font.com」公式サイト
白舟書体とシヤチハタが共同で運営するフォントサービス。今回紹介した「白舟匠楷書」を含む多くの白舟書体のフォントがサブスクリプション形式で利用できます。
https://j-font.com/
●株式会社白舟書体 公式サイト
http://www.hakusyu.com/
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