#41 スーボの代役フォント? 「トンネル」 2021/05/10
モリサワが販売している「トンネル」というフォント。文字を構成する画線と画線を重ね合わせたり入り組ませたりして、立体的に見えるようにデザインした丸ゴシック系のデザインフォント。同社が販売している「丸ツデイ」というかなフォントと、「新丸ゴ」の漢字や英数字を合わせたフォントをベースに作られたと思われるフォントで、2013年秋にリリースされた。今回はそんな「トンネル」に関する話をしようと思う。
まず「トンネル」とは、こんなフォント↓文字を構成する画線が他の画線の間を、まるでトンネルの中に入り込むように入り組み(食い込み)、立体感を出している。立体感を出すための線と線の隙間が狭い「細線」(Tightline)と、広めの「太線」(Wideline)の2種類のバリエーションがある。「細線」を使うと、太線よりも文字がより立体的に、かつ締まった印象になるのに対し、「太線」は立体感は弱まるものの細線よりもポップな印象が強くなる感じ。
おそらくこのフォントは、写研がかつてリリースしていた「スーボ」のようなフォントが欲しいという需要に応えて制作されたのだろう。「トンネル」と「スーボ」を比較してみると判る↓「トンネル」はモリサワから2013年の新書体としてリリースされたので、比較的新しいフォントなんだけど、リリースされた当時からダサいなと思っていた。モリサワフォントというブランド付きで、よくこんなフォントを作ろうと思ったな、と。「スーボ」も今見ると相当ダサいのだが、そのダサさとは違うんだよね。スーボはダサいけど骨格がシッカリしているから、丸ゴシック系のデザインフォントでありながら、文字の印象がずっしり「重く」感じられる。「スーボ」のかな文字のデザインをより遊ばせた「スーボB」も、可愛らしく無邪気な印象がありながら、「スーボ」にある文字の重みというか、緊張感は失われていない。一方で「トンネル」は、悪い意味ですごく「軽い」印象だ。スーボのコンセプトに似せているだけで、スーボに欲しいものがこれといってない…。
この「トンネル」が発表されるまで、大手のフォントベンダーからは写研の「スーボ」に代わるようなフォントの発表は無かった。だから、今までスーボを制定書体としていた媒体がPC上で制作されるようになると、スーボに代わるデジタルフォントが見つからなかったためか極太の丸ゴシック体などで代用する例が多く見られた。たぶん、スーボの代替が効くフォントが無かったから仕方なく太い丸ゴシック体で代用されていただけじゃなく、仮にPC上でスーボが使えたとしても、別にスーボじゃなくても良いや、と思った人もいたのかなと思うけど…。しかしスーボのようなフォントへの需要があったことは確かだし、モリサワは「トンネル」というフォントを制作・発表することで、その需要に応えたのだろう。「トンネル」以外にも、他社からリリースされたフォントの中には「スーボの模倣だ!」などと写研に訴えられたとしても仕方がないくらいスーボに似せたフォントもあったものの、完成度の低さが目立つものもあった↓その点で「トンネル」は、スーボに影響を受けたのだろうけどオリジナルのコンセプトも交えて制作しているから、そこは素直に評価する。僕がスーボのデザイナーであれば、「トンネル」のフォント制作に携わった人に「頑張ったで賞」くらいは与えるかもしれない。
…それでも、完成度はスーボに遠く及ばないと思うけどね。たまに「トンネル」の使用例を目にすることがあるとグッとテンションが下がるというか、残念な気持ちになる…。画線の食い込み部分の処理とか、スーボと比べると甘く軽い印象だし、何よりスーボが持っているような「ダサい」のに「緊張感」がある……そんな印象が「トンネル」には無く、「ダサい」だけでものの見事に完結してしまっているように思う。この記事を読んでくれている人で写研のフォントが好きな人の中には、「スーボと比較すること自体が失礼だ!」って思っている人もいるんじゃないかな(笑)。もしかしたらスーボの模倣だとか面倒なことを言われることを避けるために、全体的に大ぶりにデザインされたスーボと違う「丸ツデイ」(割と小ぶりなかな文字)をベースに採用し、画線の食い込み部分の作りもスーボとは違う形にしたんじゃないかな、って勘繰ってみたりする。それでも「スーボ」はスーボ、「トンネル」はトンネルとして使えるような良さがあれば良いのだが、だとしても「トンネル」には価値も魅力も感じられない…。舞台やステージに出る人にたとえるならば、スーボさんが体調を崩し人前に出られなくなったとして、トンネルさんが「代役」を務めることはギリギリできるかもしれないが、スーボさんが引退を決めたとして、トンネルさんに「後任」は絶対に務まらない、そういう感じがする。
おそらく「スーボ」のような奇抜なデザインフォント自体が、そのデザインの奇抜さ故に勢いで広く使われ、同時に飽きられてきたら「ダサい」と言われ、使用例が減っていくのが早いフォントでもあるのは確かだと思う。しかしスーボを観察していると、そのダサさは計算され尽くされた上での「斬新さ」「ダサさ」なのがよく判る。「トンネル」にはそれが感じられないし、これならあえてスーボと同系統のフォントが欲しいって声に応えず、「作らない」って選択をしても良かったのでは、とさえ思う。
今年の初めにニュースになったので既に知っている人も多いと思うが、写研とモリサワが提携したことで、共同でPC用のフォントを制作し、2024年頃から順次リリースされる予定らしい。いつか現時点ではPC上で使えない「スーボ」もデジタルフォント化されるのかな?どれくらい先になるか判らないが、その時を楽しみに、今はひとまず「トンネル」で我慢することにしよう…(笑)。
それでは、また来月の「フォントの独り言」でお会いしましょう。ィヨロシク!!
【参考にしたサイト】(いずれも2021.4.25閲覧)●トンネル|モリサワ 書体見本↓任意の文字列で試し打ちができます。https://www.morisawa.co.jp/fonts/specimen/1246●モリサワ 2013年の新書体「UD新ゴ コンデンス」などを発表https://www.morisawa.co.jp/about/news/833●モリサワ OpenTypeフォントの共同開発で株式会社写研と合意https://www.morisawa.co.jp/about/news/5280
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モリサワが販売している「トンネル」というフォント。
文字を構成する画線と画線を重ね合わせたり入り組ませたりして、立体的に見えるようにデザインした丸ゴシック系のデザインフォント。
同社が販売している「丸ツデイ」というかなフォントと、「新丸ゴ」の漢字や英数字を合わせたフォントをベースに作られたと思われるフォントで、2013年秋にリリースされた。
今回はそんな「トンネル」に関する話をしようと思う。
まず「トンネル」とは、こんなフォント↓
文字を構成する画線が他の画線の間を、まるでトンネルの中に入り込むように入り組み(食い込み)、立体感を出している。
立体感を出すための線と線の隙間が狭い「細線」(Tightline)と、広めの「太線」(Wideline)の2種類のバリエーションがある。
「細線」を使うと、太線よりも文字がより立体的に、かつ締まった印象になるのに対し、「太線」は立体感は弱まるものの細線よりもポップな印象が強くなる感じ。
おそらくこのフォントは、写研がかつてリリースしていた「スーボ」のようなフォントが欲しいという需要に応えて制作されたのだろう。
「トンネル」と「スーボ」を比較してみると判る↓
「トンネル」はモリサワから2013年の新書体としてリリースされたので、比較的新しいフォントなんだけど、リリースされた当時からダサいなと思っていた。
モリサワフォントというブランド付きで、よくこんなフォントを作ろうと思ったな、と。
「スーボ」も今見ると相当ダサいのだが、そのダサさとは違うんだよね。
スーボはダサいけど骨格がシッカリしているから、丸ゴシック系のデザインフォントでありながら、文字の印象がずっしり「重く」感じられる。
「スーボ」のかな文字のデザインをより遊ばせた「スーボB」も、可愛らしく無邪気な印象がありながら、「スーボ」にある文字の重みというか、緊張感は失われていない。
一方で「トンネル」は、悪い意味ですごく「軽い」印象だ。
スーボのコンセプトに似せているだけで、スーボに欲しいものがこれといってない…。
この「トンネル」が発表されるまで、大手のフォントベンダーからは写研の「スーボ」に代わるようなフォントの発表は無かった。
だから、今までスーボを制定書体としていた媒体がPC上で制作されるようになると、スーボに代わるデジタルフォントが見つからなかったためか極太の丸ゴシック体などで代用する例が多く見られた。
たぶん、スーボの代替が効くフォントが無かったから仕方なく太い丸ゴシック体で代用されていただけじゃなく、仮にPC上でスーボが使えたとしても、別にスーボじゃなくても良いや、と思った人もいたのかなと思うけど…。
しかしスーボのようなフォントへの需要があったことは確かだし、モリサワは「トンネル」というフォントを制作・発表することで、その需要に応えたのだろう。
「トンネル」以外にも、他社からリリースされたフォントの中には「スーボの模倣だ!」などと写研に訴えられたとしても仕方がないくらいスーボに似せたフォントもあったものの、完成度の低さが目立つものもあった↓
その点で「トンネル」は、スーボに影響を受けたのだろうけどオリジナルのコンセプトも交えて制作しているから、そこは素直に評価する。
僕がスーボのデザイナーであれば、「トンネル」のフォント制作に携わった人に「頑張ったで賞」くらいは与えるかもしれない。
…それでも、完成度はスーボに遠く及ばないと思うけどね。
たまに「トンネル」の使用例を目にすることがあるとグッとテンションが下がるというか、残念な気持ちになる…。
画線の食い込み部分の処理とか、スーボと比べると甘く軽い印象だし、何よりスーボが持っているような「ダサい」のに「緊張感」がある……そんな印象が「トンネル」には無く、「ダサい」だけでものの見事に完結してしまっているように思う。
この記事を読んでくれている人で写研のフォントが好きな人の中には、「スーボと比較すること自体が失礼だ!」って思っている人もいるんじゃないかな(笑)。
もしかしたらスーボの模倣だとか面倒なことを言われることを避けるために、全体的に大ぶりにデザインされたスーボと違う「丸ツデイ」(割と小ぶりなかな文字)をベースに採用し、画線の食い込み部分の作りもスーボとは違う形にしたんじゃないかな、って勘繰ってみたりする。
それでも「スーボ」はスーボ、「トンネル」はトンネルとして使えるような良さがあれば良いのだが、だとしても「トンネル」には価値も魅力も感じられない…。
舞台やステージに出る人にたとえるならば、スーボさんが体調を崩し人前に出られなくなったとして、トンネルさんが「代役」を務めることはギリギリできるかもしれないが、スーボさんが引退を決めたとして、トンネルさんに「後任」は絶対に務まらない、そういう感じがする。
おそらく「スーボ」のような奇抜なデザインフォント自体が、そのデザインの奇抜さ故に勢いで広く使われ、同時に飽きられてきたら「ダサい」と言われ、使用例が減っていくのが早いフォントでもあるのは確かだと思う。
しかしスーボを観察していると、そのダサさは計算され尽くされた上での「斬新さ」「ダサさ」なのがよく判る。
「トンネル」にはそれが感じられないし、これならあえてスーボと同系統のフォントが欲しいって声に応えず、「作らない」って選択をしても良かったのでは、とさえ思う。
今年の初めにニュースになったので既に知っている人も多いと思うが、写研とモリサワが提携したことで、共同でPC用のフォントを制作し、2024年頃から順次リリースされる予定らしい。
いつか現時点ではPC上で使えない「スーボ」もデジタルフォント化されるのかな?
どれくらい先になるか判らないが、その時を楽しみに、今はひとまず「トンネル」で我慢することにしよう…(笑)。
それでは、また来月の「フォントの独り言」でお会いしましょう。ィヨロシク!!
【参考にしたサイト】(いずれも2021.4.25閲覧)
●トンネル|モリサワ 書体見本
↓任意の文字列で試し打ちができます。
https://www.morisawa.co.jp/fonts/specimen/1246
●モリサワ 2013年の新書体「UD新ゴ コンデンス」などを発表
https://www.morisawa.co.jp/about/news/833
●モリサワ OpenTypeフォントの共同開発で株式会社写研と合意
https://www.morisawa.co.jp/about/news/5280
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