#36 "ナウい"は古いが、古くないナウな明朝体 2020/12/10(Thu)
かつてリョービイマジクスから販売されていた「ナウ明朝」。同社がフォント事業から撤退して以降は、MORISAWA PASSPORTやTypeBank PASSPORTを契約することで使えるようになった。10年ほど前に僕はこのフォントの存在を知ったのだが、今ほどフォントに詳しくなく審美眼のシの字もなかった当時でさえ、素晴らしい完成度に感銘を受けた。「ナウシリーズ」には明朝体だけでなくゴシック体の「ナウゴシック」(ナウ-G)も存在するが、今回は「ナウ明朝」に的を絞って僕の思うことを話す。(他に「ナウ-M」や「ナウ(明朝)」など表記ゆれがあるが、この記事では「ナウ明朝」で統一する)
まずナウ明朝とは、こんなフォント↓ゴシック体と明朝体、両方に欲しいものをしっかりと持ち合わせている。「明朝」の名を持つものの、ゴシック体と明朝体のどちらでもない感じがする。だからといって、デザインフォントという位置付けも違う気がする。
ナウ明朝と似たテイストが感じられるフォントに、「カクミン」や「モード明朝」シリーズ、「創英プレゼンス」などが挙げられる。カクミンやモード明朝シリーズは、ゴシック体と明朝体の両方のテイストを持っている点で、ナウ明朝と似たコンセプトで制作されたのだろう。しかし、どちらもゴシック体と明朝体の中間に位置するフォントとしては少々癖が強いようにも思えるし、ナウ明朝ほどの使いやすさは感じられないので、デザインフォントに分類するのが適当ではないかと思う。創英プレゼンスは、MS Officeユーザーならお馴染みのフォントだけど、全体的にぎこちないデザインなので論外とする(苦笑)。
一方でナウ明朝は、ゴシック体と明朝体、双方の良い要素をぴったり50%ずつ持ち合わせている感じ。加えてゴシック体や明朝体にはまずないようなポテンシャルまで感じられるんだよね。もともとは写植の時代に印刷での使用を想定して作られたフォントだそうだが、現代でいうところの「動画映え」するフォントの1つとして挙げても充分通用すると思う。
印刷での用途を想定して作られた多くの明朝体は漢字の横線が細く、画面上で使うと横線がはっきり表示されず読みづらい場合が多い。今でこそ画面上でも鮮明に表示できる漢字の横線の太い明朝体が各社からリリースされているけど、2000年代までは――取り分け2000年前後は横線が太く、かつ高品質で使いやすいパソコン用の明朝体フォントってあまりなかったような気がする。その中でも使いやすい「明朝」の名が付けられたフォントだったからか、ナウ明朝をテレビで見かける機会がとても多かったんだよね。単に漢字の横線が太い明朝体だからだけではなく、力強くどっしりと構えていて迷いのないデザインで、なおかつゴシック体にできない表現が可能な点など、広い意味で好まれていたのだろうと想像する。
ゴシック体であれば、文字を太いウェイトに設定すればするほど視認性が高くなり、瞬間的に表示されるテロップでも目に入りやすくなるけど、明朝体は太いウェイトを選んでも漢字の横線は細いままのフォントが多い。だからテロップやWebサイトの画像などに漢字の横線の細い明朝体を使用する時は、文字に何重にも縁取りの加工をしたり、機械的に太らせたりして使う例も多かったけど、不格好なのであまり良くないよね。
2020年現在は、画面上でも漢字の横線がはっきりと読めるよう太めに作られたテロップ向きの明朝体フォントやユニバーサルデザインフォントが各社からリリースされている。明朝体フォントに限らずとも、サブスクリプション形式で誰もが安価に数多くの高品質なフォントを気軽に利用できる時代になったと思うし、ナウ明朝も含め、特定のフォント「だけ」にこだわる必要はない。
だけど今回紹介したナウ明朝は、その名称から、どんな時代の「今」にも対応できるフォントを目指したいという作り手の気持ちがこもっていたのではないか、と僕は解釈した。どの時代でも決して最先端を行くわけではないのだけど、自然な形で常に進化する時代の「今」に溶け込める、というのか。勢いとか流行りとかではなく、使い手が無理のない自然な気持ちで使ってくれるようなフォント、というのか。仮にそうだとすれば、実際のフォントの完成度も全く名前負けしていないし、制作に携わった人たちの覚悟が感じられたという点でも、僕は「ナウ明朝」を高く評価したい。
それではみなさん、身体に気を付けて、良いお年をお迎えください。2021年も「フォントの独り言」を、ィヨロシク!!
【参考にしたサイト】●ナウ(明朝)の特徴|モリサワ 書体見本↓任意の文字列で試し打ちができます。https://www.morisawa.co.jp/fonts/specimen/1695●活字書体から写植書体、そしてデジタル書体(20)―フォント千夜一夜物語(53)https://www.jagat.or.jp/past_archives/story/8239.html
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かつてリョービイマジクスから販売されていた「ナウ明朝」。
同社がフォント事業から撤退して以降は、MORISAWA PASSPORTやTypeBank PASSPORTを契約することで使えるようになった。
10年ほど前に僕はこのフォントの存在を知ったのだが、今ほどフォントに詳しくなく審美眼のシの字もなかった当時でさえ、素晴らしい完成度に感銘を受けた。
「ナウシリーズ」には明朝体だけでなくゴシック体の「ナウゴシック」(ナウ-G)も存在するが、今回は「ナウ明朝」に的を絞って僕の思うことを話す。
(他に「ナウ-M」や「ナウ(明朝)」など表記ゆれがあるが、この記事では「ナウ明朝」で統一する)
まずナウ明朝とは、こんなフォント↓
ゴシック体と明朝体、両方に欲しいものをしっかりと持ち合わせている。
「明朝」の名を持つものの、ゴシック体と明朝体のどちらでもない感じがする。
だからといって、デザインフォントという位置付けも違う気がする。
ナウ明朝と似たテイストが感じられるフォントに、「カクミン」や「モード明朝」シリーズ、「創英プレゼンス」などが挙げられる。
カクミンやモード明朝シリーズは、ゴシック体と明朝体の両方のテイストを持っている点で、ナウ明朝と似たコンセプトで制作されたのだろう。
しかし、どちらもゴシック体と明朝体の中間に位置するフォントとしては少々癖が強いようにも思えるし、ナウ明朝ほどの使いやすさは感じられないので、デザインフォントに分類するのが適当ではないかと思う。
創英プレゼンスは、MS Officeユーザーならお馴染みのフォントだけど、全体的にぎこちないデザインなので論外とする(苦笑)。
一方でナウ明朝は、ゴシック体と明朝体、双方の良い要素をぴったり50%ずつ持ち合わせている感じ。
加えてゴシック体や明朝体にはまずないようなポテンシャルまで感じられるんだよね。
もともとは写植の時代に印刷での使用を想定して作られたフォントだそうだが、現代でいうところの「動画映え」するフォントの1つとして挙げても充分通用すると思う。
印刷での用途を想定して作られた多くの明朝体は漢字の横線が細く、画面上で使うと横線がはっきり表示されず読みづらい場合が多い。
今でこそ画面上でも鮮明に表示できる漢字の横線の太い明朝体が各社からリリースされているけど、2000年代までは――取り分け2000年前後は横線が太く、かつ高品質で使いやすいパソコン用の明朝体フォントってあまりなかったような気がする。
その中でも使いやすい「明朝」の名が付けられたフォントだったからか、ナウ明朝をテレビで見かける機会がとても多かったんだよね。
単に漢字の横線が太い明朝体だからだけではなく、力強くどっしりと構えていて迷いのないデザインで、なおかつゴシック体にできない表現が可能な点など、広い意味で好まれていたのだろうと想像する。
ゴシック体であれば、文字を太いウェイトに設定すればするほど視認性が高くなり、瞬間的に表示されるテロップでも目に入りやすくなるけど、明朝体は太いウェイトを選んでも漢字の横線は細いままのフォントが多い。
だからテロップやWebサイトの画像などに漢字の横線の細い明朝体を使用する時は、文字に何重にも縁取りの加工をしたり、機械的に太らせたりして使う例も多かったけど、不格好なのであまり良くないよね。
2020年現在は、画面上でも漢字の横線がはっきりと読めるよう太めに作られたテロップ向きの明朝体フォントやユニバーサルデザインフォントが各社からリリースされている。
明朝体フォントに限らずとも、サブスクリプション形式で誰もが安価に数多くの高品質なフォントを気軽に利用できる時代になったと思うし、ナウ明朝も含め、特定のフォント「だけ」にこだわる必要はない。
だけど今回紹介したナウ明朝は、その名称から、どんな時代の「今」にも対応できるフォントを目指したいという作り手の気持ちがこもっていたのではないか、と僕は解釈した。
どの時代でも決して最先端を行くわけではないのだけど、自然な形で常に進化する時代の「今」に溶け込める、というのか。
勢いとか流行りとかではなく、使い手が無理のない自然な気持ちで使ってくれるようなフォント、というのか。
仮にそうだとすれば、実際のフォントの完成度も全く名前負けしていないし、制作に携わった人たちの覚悟が感じられたという点でも、僕は「ナウ明朝」を高く評価したい。
それではみなさん、身体に気を付けて、良いお年をお迎えください。
2021年も「フォントの独り言」を、ィヨロシク!!
【参考にしたサイト】
●ナウ(明朝)の特徴|モリサワ 書体見本
↓任意の文字列で試し打ちができます。
https://www.morisawa.co.jp/fonts/specimen/1695
●活字書体から写植書体、そしてデジタル書体(20)―フォント千夜一夜物語(53)
https://www.jagat.or.jp/past_archives/story/8239.html
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